今回から新しいシリーズとして、制御盤のモジュール化について考えていきたいと思います。
モジュラー制御システムについて
まずは、上記の動画をご覧ください。
このモジュラー制御システムは2022年1月に行われた、IIFES2022で発表された技術です。”えらんで、つなげるだけ。”という画期的なコンセプトで大きな話題となりました。
イルメもこのプロジェクトに参画しています。
(モジュラー制御システムアライアンス http://www.modularcontrol.jp/)
私達はこのモジュラー制御システムを含めて、制御盤のモジュール化が産業界の課題を解決し、国際競争力を高める起爆剤になるのではないかと期待しています。
制御盤業界の動向
上記のデータは経済産業省の工業統計調査から”配電盤・電力制御装置製造業”の分類から作成されたデータです。このデータには産業用の制御盤以外にも配電盤なども含まれますが、2000年に比較して4割程度マイナスしていることがわかると思います。
特に問題なのが一人あたりの付加価値額※です。製造業全体の平均はおよそ1300万円ですが、制御盤業界ではおよそ800万円で2000年から比べると2割程度マイナスしています。
※付加価値額とは事業活動により生み出された価値を表します。一般的な計算方法は(付加価値額=営業利益+人件費)です。
つまり、売上や市場規模が小さくなり、さらに事業効率が下がっているということで、産業が衰退している状況といっても良いかもしれません。
その理由を少し考えていきましょう。
スマイルカーブ
一般的に産業プロセスの上流(商品企画やコンサルティング)または下流(メンテナンスやサービス)は収益性が高く、中間になる組立や製造の収益性が低くなることをスマイルカーブ現象といいます。
前述の”配電盤・電力制御装置製造業”の多くはユーザーの注文に合わせて盤を制作している会社になりますので、この組立・製造の部分に当たります。
前後工程に比較し組立・製造の収益性が低いのは、差別化が難しい(サービスに対する価値が少ない)ことと、生産性が低いことが挙げられます。
<差別化が難しい理由>
・電気制御の特性
生産設備の構成を考えた場合に、設備の価値(機能・性能)の大部分は機械設計(メカ)によって決定されます。したがって、多くの設備はメカ仕様が決定され、それに合わせた形で電気制御システムが用意されることになるので、設計自由度が低く、差別化要素の追加が難しくなっています。
・短納期
前述の電気制御の特性と同じく、設計として後工程になりますので、納期の余裕度が少ないため、価値追加検討時間が十分に取れないケースが多いです。
・ユーザーとの関係
制御盤メーカーの多くは大手機械メーカーやエンジニアリング会社の協力会社として制御盤製造の請負を行っているケースがほとんどです。
基本的にはユーザーの要求仕様・要求納期・要求コストに合わせていく必要があります。
<生産性が低い理由>
・一品一様
設備構成によって内部の構成部品などが変わるため、制御盤は基本的に一品一様です。工作機械などの量産設備でも、仕様変更やオプション追加などがありますので、全く同じものを大量に作ることが少ないのが実態です。結果的に業務の標準化が難しくなっています。
・ディスクリート部品が中心
制御盤の構成はバラバラのディスクリート部品をケーブルで配線する形がほとんどです。残念ながらこの部品の配置と配線作業は自動化が非常に難しいため、人員も時間も必要とします。
・品質管理が難しい
制御システムが正しく動作するためには、一つの配線ミスも許されません。そのため数百・数千といった配線の導通チェック・配線チェックを行う必要があります。また、最終的な品質はメカと接続してシステムとして検証する必要があります。
上記は全ての問題点を網羅しているわけではありませんが、制御盤ならではの課題も多くあります。
初回から少し暗い話題が多くなってしまいましたが、こういった課題を解決するために発案されたのがモジュラー制御システムです。
次回から各工程の課題などを交えながらモジュラー制御システムの開発経緯や今後の展開について解説していきます。
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